🩺【糖尿病について】
【糖尿病とは】
糖尿病とは、インスリンの分泌不足や働きの低下により、慢性的に血糖値が高くなってしまう病気です。
血糖値が高い状態が長く続くと、血管や神経が少しずつ傷み、目や腎臓、神経、心臓・脳・足の血管など、全身にさまざまな合併症を起こします。
一方で、初期のうちは自覚症状がほとんどないことも多く、「気づいたときにはだいぶ進んでいた」ということも少なくありません。
健康診断や血液検査で「血糖が高め」「HbA1cが高い」と言われた段階で、早めにきちんと評価し、生活習慣や治療方針を整えることがとても大切です。
【なぜ血糖が高くなるのか】
血糖(血液中のブドウ糖)は、本来インスリンというホルモンによって一定の範囲に保たれています。
糖尿病では、次の2つの異常が組み合わさることで血糖が高くなります。
● インスリン分泌が不足する
● インスリンは出ているのに、体が効きにくくなる(インスリン抵抗性)
インスリン抵抗性を強くする要因としては、
・内臓脂肪の蓄積(お腹まわりの肥満)
・運動不足
・過食(特に糖質・脂質のとり過ぎ)
・ストレスや睡眠不足
などが知られています。
【糖尿病の種類】
糖尿病にはいくつかのタイプがあります。
● 1型糖尿病
膵臓のβ細胞が自己免疫などで壊され、インスリンがほとんど出なくなるタイプ。
若年発症が多く、インスリン注射が必須です。
● 2型糖尿病
日本で最も多いタイプで、遺伝的体質に、食べ過ぎ・運動不足・肥満・ストレスなどの生活習慣が重なって発症します。
インスリンは出ているものの「量が足りない」「効きが悪い」状態が続きます。
● その他の糖尿病
膵炎・膵切除後、薬剤(ステロイドなど)、ホルモン異常、遺伝子異常などによる糖尿病。
● 妊娠糖尿病
妊娠をきっかけに見つかる糖代謝異常。
妊娠中の管理だけでなく、将来の2型糖尿病リスクも上がるため、産後のフォローも重要です。
【糖尿病の診断】
一般的には、以下のいずれかが確認された場合に糖尿病と診断されます(同じ検査の再検で確認することが原則です)。
● 空腹時血糖値 126 mg/dL以上
● 75g経口ブドウ糖負荷試験で、2時間値 200 mg/dL以上
● 随時血糖値 200 mg/dL以上(強い口渇、多飲、多尿、体重減少などの典型症状がある場合)
● HbA1c 6.5%以上
「糖尿病の疑い」と指摘された場合は、日を変えて再検査を行い、本当に糖尿病かどうか確認することもあります。
【境界型(糖尿病予備群)】
● 空腹時血糖が 110〜125 mg/dL
● 75g負荷試験で軽度の異常
● HbA1c が 5.6〜6.4% 程度
このような段階は「境界型」「糖尿病予備群」とされ、現時点では糖尿病とまでは言えませんが、将来糖尿病になるリスクが高い状態です。
発症リスク(5年以内)
空腹時血糖 110〜125 mg/dL(単独)約15〜20%
HbA1c 5.6〜6.4%(単独)約10〜15%
両方該当(FPG & HbA1c)約25〜40%
この段階で生活習慣をしっかり見直すことで、糖尿病そのものを予防できる可能性があります。
【~大血管病リスクはすでに始まっている~】
「境界型糖尿病(糖尿病予備群)」とは、空腹時血糖やHbA1cの値が正常と糖尿病の中間にある状態を指します。まだ正式に糖尿病とは診断されない段階ですが、この時点でもすでに「大血管病(心筋梗塞・脳梗塞・動脈硬化など)」のリスクが高まっていることが、近年の研究で明らかになっています。
実際、正常な血糖値の方に比べて、境界型の方では心血管疾患の発症リスクが1.5~4倍に上昇していると報告されています。これは、血糖がわずかに高いだけでも、血管の内皮細胞にダメージが蓄積し始めるためです。
さらに、この境界型の状態を放置して糖尿病に進行すると、大血管病のリスクに加えて「小血管病」も重なります。
小血管病とは:
網膜症(目の病気)・腎症(腎不全の原因)・神経障害(しびれ・感覚異常など)といった、細い血管が障害される合併症です。
糖尿病になることで、これらの失明・透析・歩行困難など生活の質を大きく損なう合併症のリスクが一気に高まります。
だからこそ、「境界型」の今が最も重要
「まだ糖尿病ではないから大丈夫」と思いがちな境界型の段階ですが、実はここが予防の最終チャンスとも言えます。
食事・運動・体重管理など、生活習慣の見直しによって、糖尿病や心筋梗塞・脳卒中のリスクを大きく下げることができます。
【糖尿病の主な症状】
軽い段階では無症状のことも多いですが、血糖がかなり高くなると以下のような症状が出てきます。
・のどが渇く(口渇)
・水分をたくさん飲む(多飲)
・尿の回数・量が増える(多尿・夜間尿)
・疲れやすい、だるい
・体重減少
・傷が治りにくい、感染しやすい(膀胱炎、皮膚感染症など)
・かすみ目
また、長年高血糖が続くことで、少しずつ合併症が進行します。
【糖尿病を放置すると起こる合併症】
糖尿病合併症は、大きく「細い血管」と「太い血管」の合併症に分かれます。
● 細い血管(細小血管症)
・糖尿病網膜症(目の合併症)
・糖尿病腎症(CKD、末期腎不全、透析)
・糖尿病神経障害(足のしびれ、自律神経障害など)
● 太い血管(大血管症)
・心筋梗塞、狭心症
・脳梗塞
・下肢動脈閉塞(足の血管狭窄)
これらは「血糖値だけ」ではなく、
・血圧
・脂質(LDLコレステロール、中性脂肪)
・喫煙
・肥満
など、多くの要因が重なって進行するため、糖尿病は“全身血管の病気”とも言えます。
【糖尿病の評価に用いる検査】
・空腹時血糖
・HbA1c(1〜2か月の平均血糖の指標)
・随時血糖、食後血糖
・腎機能(クレアチニン、eGFR)
・尿検査(尿糖・尿蛋白・尿アルブミン)
・脂質(LDL、HDL、中性脂肪)
・肝機能(脂肪肝の有無)
・血圧
・体重・BMI、腹囲
・神経学的所見(振動覚、しびれの有無など)
・眼底検査(眼科での評価)
これらを総合的に評価し、「いま、どの段階にいるのか」「合併症はどの程度進んでいるか」を把握します。
【治療の基本方針】
糖尿病治療の柱は以下の3つです。
● 食事療法
● 運動療法
● 薬物療法(内服薬・注射薬・インスリン)
単に「血糖を下げること」だけでなく、
・低血糖を起こさない
・体重や血圧、脂質を整える
・腎臓・心臓・脳を守る
ことを同時に考えながら、ひとりひとりに合った治療を組み立てます。
【食事療法の基本】
糖尿病の食事というと「厳しい食事制限」というイメージを持たれることがありますが、
大切なのは“量とバランス”を整えることです。
● 総エネルギー
・身長や体重、活動量、年齢に応じて適切なカロリーを設定
・体重が多い方は、ゆるやかな減量を目標にします
● バランス
・主食(ごはん・パン・麺)は“適量”を分散
・たんぱく質(魚・肉・大豆製品・卵など)を毎食ほどよく
・野菜・海藻・きのこをしっかり(食物繊維は血糖の急上昇を抑える)
・油は「量」と「質」(オリーブオイル、魚の脂など)を意識
● 特に注意したいもの
・甘い飲み物(ジュース、砂糖入りコーヒー、スポーツ飲料、炭酸飲料など)
・お菓子・スイーツの習慣
・夜遅い時間のドカ食い
・アルコールの飲み過ぎ(ビール、日本酒、甘いカクテルなど)
「ゼロか100か」ではなく、
続けられる形で“少しずつ、しかし確実に”整えていくことが大切です。
【運動療法の基本】
運動には以下のような効果があります。
・インスリンの効きをよくする(インスリン抵抗性の改善)
・血糖値を下げやすくする
・中性脂肪を下げ、HDLを上げる
・血圧の改善
・ストレス解消、睡眠の質向上
● お勧めの運動
・1回20〜30分、週3〜5回程度のウォーキング
・軽い筋トレ(スクワット、かかと上げ、チューブトレーニングなど)
・できれば「有酸素運動+筋力トレーニング」の組み合わせ
● 注意が必要な場合
・重い心臓病
・ひどい神経障害(足の感覚が鈍いなど)
・増殖糖尿病網膜症
・重症腎障害
などがある場合は、運動の内容や強さを個別に調整する必要があります。
【薬物療法(内服薬・注射薬)】
食事と運動だけでは血糖コントロールが難しい場合、薬物療法を追加します。
主な薬の種類と特徴は以下の通りです(代表的な考え方です)。
● メトホルミン
・肝臓からの糖の放出を抑え、インスリンの効きをよくする
・体重増加が少なく、低血糖も起こしにくい
・2型糖尿病の第一選択薬とされることが多い
● DPP-4阻害薬
・インクレチンというホルモンの働きを高め、食後のインスリン分泌を助ける
・低血糖が起こりにくく、高齢者にも使いやすい
● SGLT2阻害薬
・腎臓から余分な糖を尿に出すことで血糖を下げる
・体重や血圧も下がりやすい
・心不全や腎臓を守る効果も期待されている
・脱水や尿路感染症には注意が必要
● GLP-1受容体作動薬・GIP/GLP-1作動薬(注射薬・一部内服薬)
・食欲を抑え、胃の動きをゆっくりにし、インスリン分泌を賢く助ける
・体重減少効果が期待できる
・心血管・腎保護効果が報告されている薬剤もある
● SU薬・グリニド薬
・膵臓からのインスリン分泌を強く促す
・血糖を下げる力は強いが、低血糖や体重増加に注意
● チアゾリジン系
・インスリン抵抗性を改善
・体重増加や浮腫、心不全への注意が必要
● インスリン治療
・1型糖尿病では必須
・2型糖尿病でも、膵臓の機能が低下してきた場合や、手術・妊娠・重症感染症のときなどに必要となる
それぞれの薬には「得意なところ」と「注意点」があり、年齢・体重・合併症・生活パターンに応じて組み合わせます。
【低血糖について】
薬やインスリンの効果が強すぎたり、食事量が少なかったり、運動が多すぎたりすると、血糖が下がりすぎることがあります。
● 低血糖の症状
・冷や汗
・動悸
・手のふるえ
・強い空腹感
・目のかすみ
・頭痛、眠気
・重症では意識障害やけいれん
● 対処
・ぶどう糖、砂糖入り飲料などを速やかに摂取
・その後、ゆっくり吸収される炭水化物(おにぎり、パンなど)を追加
低血糖を繰り返さないように、
・薬の種類と量
・食事のとり方
・運動のタイミング
を一緒に調整していくことが大切です。
【糖尿病と他の病気との関係】
糖尿病は、以下のような他の生活習慣病と深くつながっています。
・高血圧
・脂質異常症(高脂血症)
・肥満・脂肪肝
・慢性腎臓病(CKD)
・睡眠時無呼吸症候群
・痛風・高尿酸血症
これらが重なるほど、心筋梗塞や脳卒中のリスクが高まります。
血糖だけでなく「血圧・コレステロール・体重・腎機能」を総合的に管理することが重要です。
【糖尿病とライフステージ】
● 高齢者の糖尿病(詳細は下部を参照)
・低血糖を避けることを最優先
・転倒や認知機能への影響も考慮
・“きれいな数値”よりも“安全な日常生活”が大切となります。
● 妊娠と糖尿病
・妊娠中は血糖コントロールの目標が少し厳しくなります
・胎児への影響を考え、一部の薬は中止してインスリンに切り替えることもあります
● 手術・造影検査・シックデイ
・手術前後や造影剤使用時には、腎機能や脱水に注意
・発熱・嘔吐・下痢など「シックデイ」には、薬の飲み方・水分のとり方を個別に調整する必要があります
【院長からのメッセージ】
糖尿病は「一度かかったら終わり」ではなく、
付き合い方次第で、合併症を最小限に抑え、健康寿命をしっかり守ることができる病気です。
大切なのは、
・ご本人の生活スタイル
・お仕事や家族構成
・目標とする生活のイメージ
を共有しながら、「現実的に続けられる治療」を一緒に考えることだと考えています。
血糖値やHbA1cの数字はあくまで“道しるべ”であり、
最終目標は「その人らしく、安心して暮らせる時間を増やすこと」です。
健康診断で血糖やHbA1cが気になった方、すでに糖尿病と診断されているけれど不安を感じておられる方、
「薬を増やすべきか」「減らせるのか」一度整理したい方は、どうぞお気軽にご相談ください。
【関連項目】
高血圧
糖尿病
脂質異常症
痛風・高尿酸血症
脂肪肝
慢性腎臓病(CKD)
睡眠時無呼吸症候群
【高齢者の糖尿病管理は「攻めすぎない」が基本】
【高齢者の糖尿病管理は「攻めすぎない」が基本】
高齢者の糖尿病治療では、若い世代と同じ「厳格な血糖値」を目標にすると
● 低血糖
● フレイル(虚弱)
● 転倒
● 認知機能低下
など重大なリスクにつながることがあります。
そのため、高齢者の糖尿病は 「安全最優先」 の治療が原則です。
【高齢者の糖尿病管理は、個々の状態に応じて3つのカテゴリーに分類】
日本糖尿病学会・老年医学会の合同委員会による分類は、次の3つです。
──────────────────────
● カテゴリーⅠ:自立度が高い高齢者
(健常高齢者・基本的ADL自立)
● カテゴリーⅡ:軽度の認知症や多職性疾患を持つ高齢者
(生活機能は維持しているが、複数疾患や軽度認知症あり)
● カテゴリーⅢ:要介護・中等度以上の認知症のある高齢者
(生活機能の低下、介護が必要)
──────────────────────
この分類に応じて、HbA1c目標を柔軟に設定します。
【高齢者のHbA1c目標値】
──────────────────────
● カテゴリーⅠ(健常/自立):6.0〜7.0%
→ 低血糖リスクが低ければ 6.5%未満も可
→ ただし過度な厳格管理は不要
● カテゴリーⅡ(軽度認知症・多病):7.0〜7.5%
→ 安全と効果のバランスをとる領域
→ 7.0%未満に無理に下げない方が良い
● カテゴリーⅢ(中等度認知症・要介護):7.5〜8.5%
→ 低血糖の危険を避けることが最優先
→ 多少高めでも「安全な日常生活」を重視
──────────────────────
※ インスリン・SU薬など“低血糖を起こしやすい薬”を使う場合は、
目標値をさらに緩めることもあります。
【高齢者における低血糖の危険性】
高齢者が低血糖を起こすと:
● 転倒骨折
● 認知機能の急速悪化
● 不整脈 → 心不全
● 意識障害(命に関わる)
など、若年層よりもはるかに重大な影響を受けます。
特に注意すべき薬:
・インスリン
・SU薬(アマリール、グリミクロンなど)
・グリニド薬
→ 高齢者では“適応を慎重に”が必須です。
【高齢者の糖尿病治療で大切なポイント】
● 「低血糖を起こさない」ことが最重要
● 数字だけでなく、日常生活の質(QOL)を優先
● 運動は無理のない範囲(転倒しない工夫)
● たんぱく質不足によるフレイル化に注意
● 食事は“やや多めのたんぱく質+適度な糖質”が基本
● 水分不足は高血糖悪化・脱水・血栓症の原因
● 家族や介護者との情報共有が不可欠
● 認知機能に応じて薬をシンプルに整理(ポリファーマシー回避)
【高齢者の HbA1c が「高すぎる」or「低すぎる」場合】
● HbA1cが高すぎる(9〜10%以上)
→ 脱水、感染症、尿路症状、体重減少に注意
→ 緩やかに改善を目指す(急激に下げない)
● HbA1cが低すぎる(6%台前半〜5%台)
→ 「頑張りすぎ」「薬が強すぎる」可能性
→ 特にインスリン・SU薬の場合は危険信号
高齢者治療では “ちょうど良い”血糖値に保つバランス がとても大切です。
【院長からのメッセージ】
高齢者の糖尿病治療は、若い方とはまったく考え方が異なります。
“きれいな数字”を追いかけるより、
安全で、無理なく、日常生活が保てる治療 のほうが重要です。
森クリニックでは、
● 低血糖のリスク
● 認知機能
● 合併症
● 生活状況(家族構成、介護、食事)
などを確認した上で、一人ひとりに合った目標値を設定しています。
「どこまで治すべきかわからない」
「薬を減らせるのか知りたい」
「高齢の家族の治療が適切か不安」
そんな時は、いつでもご相談ください。
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